序文;FOREWORD
白い塔の守護者にして、魔法に親炙するあらゆる人間にとっての優しき師“すべてを知るもの”テクリスによる魔法諸学府の設立は、近年のエンパイアにおける魔法の進歩と洗練の大きな要因となりました。
しかし、彼らの師の名誉を傷つける意図は断じてありませんが、その修練の多くは人間の軍や戦争に役立つ呪文だけに焦点を当てています。
人間の魔術師の精神はその類の“魔力の風”にのみ親しんでいるのだ、などと言う者もありますが、人間の如き厄介な問題のある種族にとっても多様な魔法を用いることは有益である、というのが研究に基づいた私の見解です。
故に、私はウルサーンであれば弱齢五十程度の意欲ある見習い魔術師が、指導を受けながら学ぶ程度の呪文を集約した魔道書を編纂いたしました。
アルトドルフなる人間の村に住まう翻訳者が、ライクシュピールへの正確な翻訳を約束してくれました。
この手引書がエンパイアの意欲ある魔術師の手に渡ることを願って止みません。
私の親類にはあなた方のような種族に手解きしたところで、何か益があるのかと疑問視する者もおります。
ですが私は、懇切丁寧な説明と指導があれば、エンパイアの未熟な魔術師であっても、誉れある魔法の業を行使するにふさわしい存在へと成長できるものと信じております。
スラサーラ・ヴェンディエル
ホエスの白い塔の僕
ルゥ・イヴェッセ, XI, 339